「療法食に変えたらまったく食べなくなった。どうしたらいいですか?」お問合せの多いこのご相談ですが、腎臓ケアフードは腎臓に負担をかける成分を制限した特別処方の食事です。食べ慣れたキャットフードからいきなり変えてしまうと食いつきが悪くなるのも仕方ないのかもしれません。ではどうすればよいのか、今回は療法食を食べない猫ちゃんへの対処方法をご説明したいと思います。
慢性腎臓病は進行の度合いにより食欲がまったくなくなる、激しい嘔吐を繰り返す等の症状がでる場合があります。
体から排出されるはずの老廃物、毒素が溜まり尿毒症を発症している危険性があります。この場合、かかりつけ獣医師にご相談されることを強くお勧め致します。
療法食を食べない時の対処方法
1フードの切替方法を工夫しましょう。
食べ慣れたフードから療法食にいきなり変えてしまうと食べないという問題が起こりがちです。そこで今までのフードに1割程度、療法食を混ぜて食いつきを確認します。2日目は2割程度混ぜて様子を見ます。そうやって様子を見ながら1~2週間かけてゆっくり療法食に切り替えてください。
2においを強くしてみましょう。
療法食に切り替える途中で食いつきがよくない場合は、においを強くしてみましょう。
猫はヒトと比べて6倍以上のにおいの受容体をもっており、食べ物のにおいで食べるか否かを判断していると言われています。においを強くする方法は次の記事を参考にしてください。
キャットフードのニオイが原因?猫がご飯を食べない時の対処方法
3煮汁を上手に利用してみましょう。
鶏肉、魚、またはブイヨンで作ったスープを療法食にかけてあげると風味が増し、食欲がでてくると考えられます。ただし、栄養バランスが崩れる可能性がある為、お試しの際にはかかりつけの獣医師にご相談ください。
腎臓ケア療法食を変える場合
いろいろ試してみたけどやっぱり食べないということもあります。腎臓ケア療法食は複数のメーカーから販売されていますので愛猫の好みに合ったフードを探してみましょう。ここではフードを変更する場合、どのような点に注目して選んでいけば良いのかご説明したいと思います。
療法食を変更される際はメーカーHPやカタログなど、成分がわかるものをかかりつけの獣医師に提示してご相談ください。
腎臓ケア療法食のポイント
腎臓ケア療法食は腎臓の負担を減らすためリン、ナトリウム、(場合によりタンパク質)を制限しています。 特にリンは腎臓機能に負担をかけ悪化させる原因となることが知られており、リンを制限した食事を与えた場合、3倍長生きしたというデータをペットフードメーカーが公表しています。
よって、腎臓ケアフードの見るべきポイントは以下の3つです。
- リンの量
- ナトリウムの量
- タンパク質の量
まず、よく処方される次のメーカーの療法食をベースに見ていきましょう。
リン、ナトリウム、タンパク質の部分を赤字にしてあります。
(療法食は特定の疾患の治癒ではなくコントロールを目的として作られたペットフードであり薬ではありません。)
まず、リンの量に着目しましょう。
ペットフードの栄養基準を設定するAAFCO(米国飼料検査官協会)では健康な成猫に推奨されるリンの量を0.5%以上(ドライフードベーズ)としています。リンは骨や歯、細胞を作るために体にとって大切な栄養素でもあるため摂取をゼロにすることはできません。基準値を満たさない量であるのは腎臓に最大限配慮した処方であるためです。
次にナトリウムの量を確認しましょう。
AAFCO基準ではナトリウムの量は0.2%以上(ドライフードベース)となっています。
下限値ではないものの一般食と比べるとやはり配合量は制限されています。
最後にタンパク質量です。
同様にAAFCO基準では26%以上(ドライフードベース)となっています。
肉食である猫はタンパク質で体を維持し、エネルギー源としても利用していることから大きく減らすことはできません。
基準値を満たさない量であるのは腎臓に最大限配慮した処方であるためです。
次に療法食メーカー各社のフードを比較していきましょう。
腎臓ケア療法食の比較
猫用の腎臓ケアフードは複数のメーカーから発売されており、ここでは獣医療の先進地域であるヨーロッパの療法食を中心にピックアップしています。また、紹介順はリンの量が少ないものから挙げています。(パッケージ、成分等は予告なく変更される場合があります。)
フードを変更する場合は成分カタログを持ってかかりつけの獣医師にご相談ください。
ドライフード
ウェットフード
通常のフードと同じように療法食にもウェットタイプがあります。ドライフードと同様に紹介順はリンの量が少ないものから挙げています。(パッケージ、成分等は予告なく変更される場合があります。)
またドライタイプのフードと比べ一見リンの量は少ないですが、1日に必要な栄養素を摂取するには量を食べる必要があり、最終的にドライタイプとほぼ同じ摂取量となります。
フード選びのポイント
同じ腎臓ケア療法食でもドライタイプとウェットタイプの2種類があります。
ここではそれぞれのメリット、デメリットをまとめましたので参考にしてください。
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メリットデメリット
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ドライフード少量でもしっかりとエネルギーや栄養素の摂取ができる。ウェットタイプに比べると嗜好性が劣る場合がある。
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メリットデメリット
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ウェットフードドライタイプと比較して嗜好性が良い。食事と同時に水分を補給できる。フードの70〜80%を水分が占めるため必要なエネルギー、栄養素を摂取するには量を食べる必要がある。
愛猫に食欲がない場合、ウェットフードのみの食事では必要量を摂取できない可能性があります。 またドライフードのみの場合は適切に水分補給をさせる工夫が大切です。給餌方法や療法食のフード選びに迷ったらお気軽にご相談ください。給餌される際はかかりつけの獣医師にご相談をお願い致します。
注意!
腎臓療法食は弱った腎臓をケアするために特別に成分調整されたフードです。たんぱく質は肉食である猫にとって重要な栄養素であり、リンも骨や歯を作るために欠かせないミネラルです。よって健康な猫に継続的に摂取させると成長を阻害する恐れがあります。給与される際はかかりつけの獣医師にご相談ください。
腎臓病(慢性腎不全・腎疾患)とは?
猫がかかりやすい病気として慢性腎不全が挙げられます。 腎臓の機能が徐々に衰え、機能しなくなる病気で、15歳以上の高齢猫の3割が罹患していると言われており、年齢が高くなるにつれてかかりやすくなります。
慢性腎不全の症状は体外に排泄されるはずの毒素や老廃物が体内にたまり、次のような症状が現れます。
- 水をよく飲む
- おしっこの量が増える
- 食欲の低下
- 体重の減少
- 毛ヅヤがなくなる
- おしっこが薄くなる
- おしっこのニオイがあまりしなくなる
腎臓のおおよそ75%が機能しなくなって初めて上記のような症状が現れます。 さらに症状が進み、腎臓の機能が著しく低下すると、
- 口臭がひどくなる
- 食欲がまったくなくなる
- 激しい嘔吐を繰り返す
といった症状が現れます。
腎臓は一度障害を受けると、その機能は回復しません。よってできるだけ早期に、
- 水をよく飲む
- おしっこの量が増える
といった異常のサインを見落とさないよう注意する必要があります。
こちらのサイトでオシッコの量やニオイをチェックし記録する専用シートのダウンロードができます。
花王株式会社 | 泌尿器ケア研究会
慢性腎不全の治療
病気の進行を遅らせ、症状を和らげることが治療の目的となります。 また食事療法では、リン、ナトリウム、(場合によりタンパク質)を制限した療法食が用いられます。 特にリンは腎臓機能に負担をかけ悪化させる原因となることが知られており、リンを制限した食事を与えた場合、3倍長生きしたというデータをペットフードメーカーが公表しています。
慢性腎臓病の新薬
2017年4月より猫の慢性腎臓病の進行を遅らせる新薬「ラプロス」が共立製薬株式会社より発売が開始されました。この新薬により慢性腎臓病が完治するわけではありませんが、腎臓に直接作用し病気の進行を遅らせる効果がある薬は今までになかったため猫ちゃんの不快な症状の緩和が期待できるとして注目されています。
猫慢性腎臓病治療薬 ラプロス®の製造販売承認取得について
http://cs2.toray.co.jp/news/toray/newsrrs01.nsf/0/93746DCF52C4544E492580AE0030736C
2019年6月20日追記
猫の腎臓病の根本的な「完治」を目指す新薬についての報道がありました。開発者は東京大学大学院医学系研究科の宮崎徹教授で実用化は2020〜21年春を目指しているとのこと。
2021年7月11日追記
猫の腎臓病新薬、コロナ禍で資金難
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021070800906&g=soc