猫も人間と同様に、加齢による基礎代謝の低下によって1日に必要なカロリーが減少します。当然、食事量も減少していきます。
加齢によって食事量が減ることそのものは自然な変化ですが、食べ物をかむ力や消化能力、嗅覚や味覚が衰えた高齢猫は、体調の悪化を起こしやすくなってしまいます。
今回は、高齢猫がご飯を食べなくなる主な原因と、食欲回復に有効な対処方法を中心に説明していきます。
食欲不振と併せて普段と違う様子(嘔吐・下痢・元気がない・水も飲まない等)が見られる際には、緊急を要するケースも考えられます。動物病院の受診を強くお勧めします。
ご飯を食べない猫。何日まで大丈夫?原因別対処法
老猫がご飯を食べなくなる6つの原因
高齢猫の食欲不振の主な原因と考えられる6つの項目について、以下に説明します。
基礎代謝の低下
年齢を重ねた猫は、呼吸や体温の維持といった生命活動に必要不可欠な基礎代謝が低下し、食事量が減少していきます。
基礎代謝の減少によって、必要となるエネルギーも減っていくため、食事量が減少すること自体は、加齢による自然な変化だと言えます。
消化機能の衰え
胃や腸などの消化器系の働きが加齢によって弱ってしまうと、食事量が減少します。 消化機能が衰えた高齢猫には、消化吸収しやすいフードを与えることが大切です。
嗅覚の低下
猫は食べ物を口にするかどうかの判断を、まず嗅覚で行います。加齢によって嗅覚が低下してしまうと、食べ物の安全性を判断しづらくなり、食欲不振につながります。
鼻水や鼻づまりがある場合も、食欲が減退しやすくなります。鼻づまりの原因が呼吸器系の病気の可能性もあるため、苦しそうに呼吸しているといった鼻づまり以外の症状も同時にある場合は、動物病院を受診しましょう。
歯周病や口内炎
歯周病や口内炎といった口の中の病気やトラブルがあると、口内の痛みのためにご飯を食べにくくなります。
歯周病のリスクは加齢によって高まっていきます。猫の歯周病の治療には、動物病院での治療が必要です。
口内炎や口の中のケガも、食欲不振の原因になります。高齢期の猫は唾液量が減少するため、口内の殺菌力が低下して、口内炎が生じるリスクが高くなります。悪化した口内炎では、柔らかいフードも食べられないほどの激しい痛みが出ることがあります。
口内炎や歯周病の予防には、歯磨きが効果的です。口内の病気やトラブルは、他の病気を引き起こす原因にもなるため、歯磨きを習慣にしましょう。
慢性腎不全や糖尿病などの病気
猫の食欲不振は、多くの病気や体調不良によって引き起こされます。高齢猫の場合は、特に慢性腎不全や糖尿病といった病気に注意を払う必要があります。
慢性腎不全の初期症状としては、水をたくさん飲む「多飲」や尿の量が増える「多尿」などが見られます。病気が進行するにつれて、食欲不振のほか、嘔吐や下痢、体重減少といった症状も現れてきます。
慢性腎不全は、ミネラルの一種である「リン」の過剰摂取によって、進行が早まります。リンを制限したフードを与えることによって、腎臓の機能低下のリスクを低減できると言われています。
慢性腎不全が疑われる症状が見られる場合は、できるだけ早く動物病院を受診することをお勧めします。
愛猫が腎臓ケアフードを食べない時は
また、症状が進行した糖尿病でも、食欲不振が見られるケースが多くなります。 病気の予防や早期発見のために、高齢猫の場合は、特に気になる体調の変化が無くても、定期的に動物病院を受診することをお勧めします。
水を飲んでいるかチェックしましょう
食欲不振が続くと食事のことばかり気になりますが、脱水症状を避けるため水を飲んでいるかもしっかりチェックしましょう。
水分を取らない状態が続くと、脱水症状が生じるおそれがあります。猫の皮膚をつまんでみて、すぐ戻らない場合は脱水症状を起こしており、悪化すると目がくぼんできます。脱水症状が見られ、それでも水や食事を取らない場合は、早めに動物病院を受診して水分・栄養補給をしてもらう必要があります。
高齢猫は「のどが渇いた」という感覚が鈍くなってしまうため、水を飲む量が少なければ、ウェットフードを与える、ドライフードをふやかすなどを試すことをお勧めします。猫がよく行く場所に新鮮な水を置く、ヒゲの感覚が敏感な猫には広口のボウルに新鮮な水を入れるといった、水を飲みやすくする環境作りも重要です。また、中には鶏肉、魚、またはブイヨンで作った小さな氷で風味付けした水(冬季は人肌程度に温めて)を好む猫もいますので好みを把握し、対処しましょう。
環境の変化などのストレス
加齢による自然な食事量の減少に加えて、猫が何らかのストレスを感じてしまうと、急にご飯を食べなくなるケースもあります。
ストレスの原因となる事柄はさまざまですが、特に生活環境に変化があった場合には、猫がストレスを感じる可能性が高くなります。猫がストレスを感じる事例としては、主に以下のようなものが考えられます。
- ペットホテルに預けた。
- 引越しをした。
- 留守番をさせる回数や時間が増えた。
- 子猫や新しい家族を迎えた。
- 部屋の模様替えをした。
生活環境の変化が食欲不振の原因だと考えられる場合は、すぐに食べなくても、しばらくご飯を置いたままにして様子を見てみましょう。
食欲不振につながるストレスの防止のために、できるだけ猫がリラックスできる環境を作りましょう。引越しや部屋の模様替えをする際には、猫が愛用している毛布やおもちゃなどを用意することで、ストレスを軽減できます。
老猫の食欲不振への対処方法
環境の変化もなく、さらに病院でも異常なしと診断されたものの、ご飯を食べない状態が続く際には、どのような対処方法を実践すべきでしょうか。 高齢猫は嗅覚や味覚、消化器の働きが弱くなっているので、消化しやすく、猫が好んで食べることのできる、以下のような食事の与え方を実践してみましょう。
フードの匂いを強めて嗜好性を高める
猫は食べ物を口にするかどうかの判断を、まず嗅覚で行います。加齢によって嗅覚が低下してしまうと、食べ物の安全性を判断しづらくなり、食欲不振につながります。
フードの嗜好性を高めるにはフードの匂いを強める、以下のようなものがあります。
- ドライフードを人肌に温めて匂いを強くする
- ドライフードをお湯やササミの茹で汁でふやかしてみる(嗜好性と同時に食感や消化もよくなる)
- 匂いが強いウェットフードをドライフードに混ぜる(一般的にドライフードよりウェットフードの方が匂いが強く、食いつきが良い。また消化にも良い。)
キャットフードのニオイが原因?猫がご飯を食べない時は
「フードを温める」「お湯で食感を変えてみる」等で食いつきが変わるか、まず確認してみましょう。次はフード自体を変える方法をご説明します。合わせて高齢猫に適したフードとはどのようなものか、猫の体の変化も踏まえて考えていきます。
老猫に合った成分・形状のフードに切り替える
いろいろ試してみたけどやっぱり食べないということもあります。持病がなければ色々なフードにチャレンジし、愛猫の気に入るフードを探してみましょう。 ここでは高齢期の猫の体の変化から適切と思われるフードをいくつかご紹介します。(もちろん、ここで紹介するフードが全てではありません。)
高齢猫に与えるフードを選定する際には、加齢による消化機能や嗅覚の低下、食事量の減少、慢性腎不全や糖尿病といった病気の予防などのポイントを重視しましょう。
特に注意が必要な病気として猫がかかりやすい慢性腎不全が挙げられます。この病気は腎臓の機能が徐々に衰え、機能しなくなる病気です。15歳以上の高齢猫の3割が罹患していると言われおり、年齢が高くなるにつれてかかりやすくなる、特に注意が必要な病気の一つです。
慢性腎不全はミネラルの一種である「リン」の過剰摂取が進行を早めることが知られており、高齢期に入ったらリンを制限したフードに切り替えることで腎臓の機能低下に配慮することができると考えられています。
また、高齢猫は基礎代謝や活動量の低下によって太りやすくなってしまいます。肥満傾向が見られる場合は、カロリーを抑えたフードに変更することをお勧めします。
愛猫の肥満対策!ダイエット方法のご紹介
高齢猫に適したキャットフードの主な特徴としては、以下の項目が挙げられます。
- 食事量が減少しても十分に栄養(カロリー)を摂取できる成分を含む
- 食べやすい形状(小粒・柔らかいウェットフード等)
- 腎臓の機能低下に配慮してリンを制限している
- 肥満傾向がある猫の場合はカロリーを抑えている
フードのパッケージに「シニア用」と記載されているものであっても、全てのシニア猫用フードがリンを制限した成分構成になっているわけではありません。
ペットフードの栄養基準を設定するAAFCO(米国飼料検査官協会)では、健康な成猫に推奨されるリンの量を0.5%以上(※ドライフードの場合)と定めています。 リンは腎臓に負担をかけるリスクがある一方で、骨や歯、細胞を形成するために必要となる大切な栄養素でもあります。そのため、リンの摂取をゼロにすることはできません。腎臓の機能が正常な高齢猫に予防として与えるフードは、リンの含有率が0.5%〜1%未満を基準にして、選定するとよいでしょう。
シニア期のおすすめフード
シニア期を迎えた猫におすすめのキャットフード2点をご紹介します。 どちらのフードもペット先進地域であるドイツのメーカー、HAPPY CATです。サーモンとラムの2つの味をライナップしていますので、愛猫の好むものを選んであげるとよいでしょう。2つの違いとしてはラムの方が若干リンの含有量が多く、排泄物の臭いを軽減する目的のユッカシジゲラが配合されていない点です。
フードの切り替え方
猫は急な環境の変化を嫌います。それはフードも同じで、急に新しいフードを与えても食べない場合があります。フードを切り替える場合は、以前のフードに新しいフードを少し混ぜて与え、次の日は新しいフードの量を少し増やしてみましょう。そうやって1週間程度かけて新しいフードに切り替えていきましょう。その際、下痢などの不調が見られる場合には以前の物に戻し、改めて別のシニアフードを試してみましょう。
まとめ
本記事では、高齢猫がご飯を食べなくなる原因と、健康面で異常のない場合に有効な食欲回復のための対処方法、おすすめのキャットフードに関する情報をご紹介しました。
持病のない高齢猫であれば、与える食事を工夫するだけで、食欲不振の改善が期待できることも少なくありません。食欲不振だけでなく、同時に気になる変化や症状が見られる場合は、早めに動物病院を受診することをお勧めします。